ICT導入は、困っている場面を一つ選ぶところから
介護事業所や訪問看護ステーションで新しいシステムを検討すると、記録、予定管理、情報共有、生成AIによる文章作成など、さまざまな機能が候補になります。ただ、同じ「情報共有」でも、訪問先から管理者へ知らせたいのか、主治医へ報告したいのかで、必要な仕組みは変わります。
最初の打ち合わせでは、製品名に加えて、仕事が止まる具体的な場面を挙げてみてください。「訪問を終えた職員が記録を入力しても、管理者が確認したか分からず電話をかけている」と書ければ、入力機能だけでなく、確認状況の表示や未確認時の対応も検討できます。
本稿では、利用者への支援を続けながら、職員と連携先の間で仕事を確実につなぐための準備に焦点を当てます。障がい福祉の事業所でも、自分たちの支援内容や勤務体制に置き換えて活用できます。
2026年11月の公的資料から考える導入準備
IPAは2026年11月5日、「AI時代の要求管理ハンドブック」を公開しました。公開ページでは、実現したい目的を具体的な要求・要件につなげ、関係者の理解を合わせながら、運用中の変更にも対応していく考え方を示しています。介護専用の制度資料ではありませんが、現場と管理者、提供事業者の認識をそろえる際の参考になります。
厚生労働省の介護テクノロジーの利用促進ページには、ケアプランデータ連携に伴う業務フロー見直しのポイント集や、訪問看護の情報連携に関する標準仕様が掲載されています。連携機能を選ぶ際は、対象の帳票と、自分たちが使う製品・連携先での対応範囲を確かめる視点が役立ちます。
障がい福祉では、11月6日付の第2回検討会資料に、生産性向上ガイドラインの共通編・サービス種別編が「素案」として掲載されています。本稿はこの掲載状況を紹介するもので、素案を確定済みの義務として扱うものではありません。
在宅医療分野では、厚生労働省の令和8年度連携支援事業のページで、都道府県・連携拠点担当者向けの説明会資料が公開されています。自事業所のICT導入も、地域の関係者とどのように連絡を受け渡すかまで考えることが大切だと、編集部は考えます。
以下の整理項目、デモの進め方、架空例は、公的資料の指定様式や制度要件ではありません。各事業所の体制に合わせて調整してください。
見積もり前に整理する、現場要件の6項目
「欲しい機能」の一覧に、使う場面と確認方法を添えましょう。小規模な事業所なら、まず一つの業務について、次の6項目を1枚にまとめる方法が考えられます。
1.対象の業務と困りごと
どの工程で、誰が困っているか。例:訪問後の報告について、管理者への確認電話が発生している。
2.使う人・場所・時間
常勤・非常勤、管理者、訪問先、事務所などを明記。勤務交代や管理者不在の場面も挙げる。
3.入力・出力・連携先
どの情報を入力し、誰へ、どの形式で渡すか。既存ソフトとの連携は対象項目まで確認する。
4.確認する担当と期限
入力、確認、承認を分けて整理。担当不在時の代行者と、未確認が続いた場合の連絡方法を決める。
5.止まったときの運用
通信できない訪問先、端末故障、サービス停止を想定し、代替の記録先と復旧後の反映担当を考える。
6.導入できると判断する条件
実際の端末で一連の作業を試せるか。初期費用、継続費用、研修、問い合わせ窓口も確認する。
このうち「今回の導入に必要」「次の段階で検討」「今回は対象外」を関係者で決めておくと、見積もりの範囲をそろえられます。価格差が出たときも、含まれる作業や支援の違いを確かめやすくなります。
架空例|「共有しやすい」をデモで確かめられる形にする
以下は訪問看護ステーションを想定した架空の検討例です。特定製品の機能や実績、実在する患者・事業所の事例ではありません。
現場の要望が「訪問後の申し送りを共有しやすくしたい」だったとします。打ち合わせで確かめると、困りごとは「誰が確認したか分からないこと」と「管理者が休みの日に報告が止まること」でした。
そこで検討用の要件を、「担当職員が架空の訪問報告を登録し、当日の確認担当が確認済みにできる。担当不在時は代行者が引き継げる」と書きます。緊急性のある連絡は、事業所が定めた緊急連絡の手順を使う前提も添えます。
- 普段使う予定の端末で、架空の報告を入力する。
- 別の担当者としてログインし、報告と確認状況を探す。
- 確認担当が不在の設定で、代行者へ引き継ぐ操作を試す。
- 通信が使えない場合に何ができ、何ができないかを確認する。
- 入力・修正の履歴と、必要なデータの取り出し方を確かめる。
画面を見せてもらうだけで終えず、現場職員が自分で操作して、つまずいた箇所を残しましょう。連携先への送信を試す場合も、相手先の利用環境、受信後の確認方法、試験用アカウントの用意を事前に相談します。
生成AIを使うなら、人が確認する箇所を先に決める
生成AIで記録や報告文の下書きを作る場合は、文章の読みやすさと併せて、原情報との照合ができるかを確認しましょう。氏名、日時、数値、本人の発言、判断の根拠など、誤ると支援に影響する項目について、誰が確認し、どの時点で確定するかを決めます。
たとえば、AIが作った文章を職員が確認して保存するまでをデモで試し、元の記録へ戻れるか、修正内容を追えるか、未確認の文章がそのまま外部へ送られないかを確かめます。「AI機能あり」という説明だけでは、日々の運用を判断できません。
初期のデモでは実在する人の情報を含まない架空データを使いましょう。実運用を検討する際は、組織の情報管理担当とともに、入力できる情報、保存先、アクセス権、提供事業者によるデータ利用条件などを確認してから運用範囲を決めることを提案します。
外部との連携は「送れる」から「受け取って動ける」まで
訪問看護、訪問診療、居宅介護支援、相談支援などの間では、同じシステムを使っているとは限りません。自分たちが送信できても、相手先で見つけにくかったり、確認する担当が決まっていなかったりすれば、連絡の行き違いは残ります。
見積もりの前に、主な連携先へ「現在使っている連絡方法」「受け取りやすい形式」「確認する時間帯」を聞いておくと、必要な要件が具体的になります。機密情報を含まない確認用の案内で、窓口の把握から始める方法もあります。地域全体を一度に切り替える計画にせず、協力できる相手と試す範囲を相談しましょう。
標準仕様への対応についても、製品名だけで判断せず、対応する版、対象帳票、送受信できる項目、別途必要な契約を提供事業者へ確認します。導入予定時点の仕様と、相手先の環境を合わせて確かめることが必要です。
導入後の運用を、地域へ正確に伝える
ICTを導入した後は、地域へ知らせる内容も整理しましょう。「DXを推進しています」に加えて、「相談窓口はどこか」「通常の連絡に使う方法は何か」「緊急時はどう連絡するか」を、実際に運用できる範囲で案内すると、相手が相談しやすくなります。
たとえば、情報共有ツールの利用開始を知らせる資料には、対象となる連携先、利用開始の手順、従来の連絡方法を併用する期間、問い合わせ先を記載します。試行中の機能と運用が確定した機能を明記し、対応できる範囲を担当者間でそろえてから配布しましょう。
株式会社メディケアプロモーションは、医療・介護・障がい福祉分野の地域連携営業を支援しています。事業所の取り組みや相談窓口を地域の支援者へ継続して伝える活動には、地域訪問活動を支援するMother、複数拠点・多エリアで地域連携営業を整える相談には、法人向け地域連携営業BPOのTHRIVEの案内をご覧ください。
次の製品説明会には、一つの業務の要件を持っていく
次回の打ち合わせまでに、職員と管理者が一緒に、一つの困りごとを選んでみてください。対象業務、使う人、連携先、確認担当、停止時の運用、導入判断の条件をそろえると、製品説明で確かめるべき点が明確になります。
その要件を使って、現場の端末で一連の操作を試す。変更があれば理由と確認担当を記録する。こうした準備が、日々の支援と地域連携に合うICTを選ぶ土台になります。
・IPA「AI時代の要求管理ハンドブック」公開ページ(2026年11月5日)
・厚生労働省「介護テクノロジーの利用促進」
・厚生労働省「第2回 障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会(資料)」(2026年11月6日)
・厚生労働省「令和8年度 地域の在宅医療の体制整備に向けた調査・連携支援事業」
※2026年11月7日時点で確認した公開情報をもとに編集しています。公的資料の紹介は各リンク先の掲載内容に基づきます。現場要件の6項目、デモ手順、架空例、地域への案内方法はMona編集部の提案です。個別製品の対応・費用は提供事業者へご確認ください。
