厚労省が示した「障がい福祉の生産性向上」の考え方

厚生労働省は、障がい福祉分野の生産性向上を「支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで、新たな価値を生み出すこと」と位置づけています。

2026年7月には「障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会」も始まり、人材確保、テクノロジー活用、事業者間の連携・協働、手続負担の軽減などを含めた議論が進んでいます。

「生産性向上=支援を短くする」ではありません。間接業務や不要な負担を軽くし、支援に使える時間と力を残すことが本来の方向です。

障がい福祉では「効率化できない時間」がある

障がい福祉の支援には、一般企業の業務のように、すべてを時間短縮できない場面があります。

たとえば、精神障がいのある利用者が不安定な夜に、グループホームの世話人と長く話すことで落ち着きを取り戻すことがあります。表面だけを見れば「会話に長い時間がかかっている」と見えるかもしれません。

しかし、その時間によって本人の安心が保たれ、翌日の生活が安定するなら、それは削るべき無駄ではなく、支援そのものです。

障がい福祉では「時間がかかる=非効率」とは限りません。支援の意味を見ずに時間だけを短縮すると、効率化したはずなのに支援の質が薄くなることがあります。

生産性向上で減らすべきなのは「支援」ではなく「支援以外の負担」

二重・三重の記録同じ内容を紙、Excel、別システムへ繰り返し入力する業務。
探す時間利用者情報、申し送り、書類、連絡先などを探す時間。
連絡の行き違い電話、メモ、口頭伝達だけに依存して発生する確認作業。
転記・集計作業報告書や会議資料のために、すでにあるデータを手作業で集め直す業務。
属人化した業務特定の職員しか分からない手順や情報。
行政・事務手続の負担支援とは直接関係しない申請や管理に取られる時間。

「効率化」と「支援」はシーソーなのか

現場では、効率化を強く求めすぎると支援が薄くなり、逆にすべてを人の努力に頼れば職員が疲弊します。

この二つは、確かにシーソーのような関係になることがあります。

効率化だけを重視支援時間まで削る危険
バランス間接業務を軽くする
支援だけを人力で維持職員の疲弊につながる

だから必要なのは、「全部を効率化する」ことではありません。

どこを効率化してよいのか。どこは人が時間を使うべきなのか。

この線引きを現場ごとに考えることが重要です。

AIやICTは「人を減らすため」ではなく「人にしかできない時間を増やすため」

記録の下書き、申し送りの整理、会議内容の要約、情報検索、定型文書の作成などは、AIやICTが力を発揮しやすい領域です。

一方で、利用者の表情を見て声をかける、不安の背景を考える、長い沈黙を待つ、本人が安心するまで話を聞くといった支援は、人が担う価値が大きい領域です。

テクノロジーを導入して「支援者を減らす」のではなく、「支援者が人にしかできないことへ戻れるようにする」。この順番を間違えないことが重要です。

地域連携でも同じことが言える

地域連携や営業活動も、件数だけで評価すると本質を見失うことがあります。

訪問件数を増やすことは認知を広げるために重要です。しかし、ケアマネジャー、MSW、相談支援専門員から聞いた現場の声や、「どんな利用者で困っているのか」という情報を拾わなければ、単なる資料配布になります。

効率よく回ることと、相手の話を聞くこと。その両方が必要です。

まとめ|生産性向上とは「支援に戻す時間をつくること」

障がい福祉の生産性向上は、利用者への支援を削ることでも、人員を減らすことでもありません。

むしろ、支援とは直接関係しない負担を減らし、限られた人材が利用者と向き合える時間を確保することに意味があります。

削るべきは、支援ではなく、支援を邪魔している業務です。

何を効率化し、何をあえて効率化しないのか。その判断には、制度だけでなく実際の現場を知ることが欠かせません。

参考資料・出典

※2026年8月17日時点の公開資料をもとに編集。現場事例・地域連携に関する考察は株式会社メディケアプロモーションの実務経験をもとにしています。

編集担当:Mona(株式会社メディケアプロモーション)

介護・障がい福祉・訪問医療における営業、地域連携、広報の視点から、公表資料と現場実務をつなぐ情報を発信しています。